変わってしまった世界の中で

去年の10月のことを、思い出してみる。
そのとき旅した南ヨーロッパは、
明るい光と色彩に満ちあふれていた。
人気の観光地は、どこも各国からのお客で賑わい、
笑顔と陽気な声が飛び交っていた。

それからわずか半年。
世界の様相が、ここまで一変してしまうなどと、いったい誰が
奇妙な夢の中にでも想像し得たであろうか。

あの日訪ねたあの土地で、出会った人々は、
いまごろどうしているのだろうか。

騒ぎが大きくなり始めた頃、
巨大な白い客船が沖に浮かび、そして埠頭に繋がれる姿を
この目で見た。
だがマスコミで騒がれる話題と
現実の自分との間には、まだずいぶん距離があった。

影響を受ける人々が次第に増え始め、
ウチの近所の地名も、ちらほらと報道されるようになった。
緊急事態が宣言されたが、ワタシの仕事場の最寄り駅では
朝の通勤風景に何の変化もなく、いつも通りの人波が流れていた。
電波に乗っている報道と、電車に乗っている自分との乖離に
呆然としているうちに
在宅勤務、そして臨時休業と状況は変化した。
これから先、どのような展開が待っているのか
かなり不透明なままである。

第二次大戦以来、とさえいわれる未曾有の危機が
いち地方都市から空を越え海をわたり、こんなにやすやすと
足元まで迫ってくるとは、正直思ってもみなかった。
人類の力が、この危機を乗り越えてくれるよう願うと同時に、
大きな障壁、そして分断を経験した世界がどこへ向かうのか、
言いようのない不安も感じる。

2015年9月のフランス、
ロワール地方で過ごした夢のような時間を思い出しながら、
思い立ったとき、行きたい場所へ旅する自由のある世界が、
ふたたび戻ってきてくれることを祈っている。

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